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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)1455号 判決 1973年5月31日

当事者参加人 本間喜八郎

右訴訟代理人弁護士 岡田正美

右訴訟復代理人弁護士 大塚泰紀

右補助参加人兼脱退原告 日本信託銀行 株式会社

右訴訟代理人弁護士 佐々野虎一

同 小林孝二郎

被告 長谷川喜永

右訴訟代理人弁護士 金沢恭男

右訴訟復代理人弁護士 金沢善一

主文

一、被告は参加人に対し金四、六五八、三〇三円及び内金三、一二九、二九〇円に対する昭和四六年一二月一六日から完済まで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は参加による費用を含め被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、参加人

主文第一項同旨と「参加による訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求める。

二、被告

「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求める。

第二、主張

一、請求原因

(一)脱退原告日本信託銀行株式会社(以下、単に日本信託銀行と略記)は昭和三八年一二月二日訴外株式会社白子(以下単に訴外白子と略記)と銀行取引契約をなし、右契約で、訴外白子について会社更生開始の申立がなされたときは、通知・催告を要さずに、訴外白子は同銀行に対し割引手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちにこれを支払うべく、その債務不履行の場合の損害金を日歩四銭の割合とする旨特約した。被告は同日右銀行に対し右取引から生ずる訴外白子の一切の債務について連帯保証を約した。

(二)訴外白子は、昭和四三年六月七日、東京地方裁判所に対して会社更生開始の申立(昭和四三年(ミ)第一三号事件)をなしたため、に日本信託銀行から割引を受けていた別紙手形目録記載の約束手形につき、その手形額面全額の買戻債務を負い、直ちにその履行をなすべきに至った。

日本信託銀行は、訴外白子の右債務に対する被告の連帯保証債務について、その請求権を保全するため被告所有の別紙物件目録記載の本件土地につき、東京地方裁判所より仮差押決定を得、昭和四三年六月二〇日受付をもってその登記を経由した。

前記会社更生事件における更生計画により減縮されなかった場合としての、昭和四六年五月一日現在における日本信託銀行の訴外白子に対する債権額は、別紙債権額明細のとおり、買戻請求元金三、一二九、二九〇円、昭和四六年四月三〇日迄の損害金一、六六五、〇七九円以上合計四、七九四、三六九円及びうち元金三、一二九、二九〇円に対する昭和四六年五月一日以降完済まで日歩四銭の割合による損害金である。

(三)訴外南旺建設株式会社(以下単に南旺と略記)は、昭和三七年夏頃、当時農林省の所有名義であった本件土地について、被告がその払下を受けることを条件に、被告からこれを代金五、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、次いで昭和三九年九月頃、参加人は南旺から右土地を代金二三、〇〇〇、〇〇〇円で買受け(契約書は昭和四〇年一月七日付で作成)、当時南旺、被告、参加人間で、農林省から右払下を受けて被告名義に所有権移転登記がなされたときは、南旺に対する登記を省略して、被告から直接参加人に所有権移転登記をなす旨合意した。

(四)被告は昭和四一年七月一〇日本件土地について払下を受け、昭和四二年一月一八日被告名義に所有権移転登記を了したに拘らず、原告に対する所有権移転登記をしないので、原告は江戸川簡易裁判所に対し被告を相手として右土地の所有権移転登記を求める訴訟(同裁判所昭和四三年(ハ)第一〇一号)を提起し、昭和四四年一〇月二七日参加人勝訴の判決がなされ、同年一一月一二日同判決は確定し、右判決により参加人は昭和四五年二月二五日右土地について所有権移転登記を行った。

(五)ところが本件土地については前記(二)のように日本信託銀行のため仮差押登記がなされていたので、参加人は、同銀行との間の東京地方裁判所昭和四六年(モ)第一二五六五号仮差押異議事件において、昭和四六年一二月一三日同銀行と和解をなし、右銀行の訴外白子に対する前記(二)の債権額による被告の連帯保証債務のうち、元金三、一二九、二九〇円と損害金一、五二九、〇一三円の合計金四、六五八、三〇三円について、同年一二月一五日同銀行に代位弁済し、前記仮差押を解放して貰った。参加人の右弁済は弁済をなすにつき正当な利益を有する者のなした弁済であるから、参加人は日本信託銀行の被告に対する連帯保証債務請求権について当然同銀行に代位することとなった。

(六)よって参加人は被告に対し右金四、六五八、三〇三円とそのうち元金である三、一二九、二九〇円に対する代位弁済の翌日である昭和四六年一二月一六日から完済まで日歩四銭の割合による損害金の支払を求める。

二、答弁

請求原因(一)、(二)の事実は認める。同(三)のうち、南旺、被告及び参加人が中間省略登記の合意をなしたことは否認し、南旺と参加人間の売買の事実は不知、その余の事実は認める。同(四)の事実は認める。同(五)のうち代位弁済の事実は不知、参加人が日本信託銀行に当然代位するとの主張は争う。

三、抗弁

(一)南旺は被告との間の本件土地売買代金のうち金五〇〇、〇〇〇円を支払っていなかったところ、昭和三九年一〇月頃、参加人は被告に対し、右売買残代金五〇〇、〇〇〇円を参加人において負担してこれを被告に支払う旨約した。しかるに参加人において右金五〇〇、〇〇〇円を被告に支払っていないから、参加人は被告の日本信託銀行に対する連帯保証債務につき何らの利害関係を有するものではない。また参加人は被告が右銀行に対する連帯保証債務について争っていることを知りながら、被告の意思に反して日本信託銀行に弁済したのである。従って参加人のなした弁済は被告に対し効力がない。

(二)被告は日本信託銀行との間で昭和四四年一二月頃被告の同銀行に対する本件連帯保証責任の限度額を訴外白子に対する会社更生事件の更生計画による切捨て額と同額の金二、九八二、〇九六円とする旨定め、同銀行はその余の利息等を免除した。

(三)被告は、参加人に対し右(一)のとおり本件土地の売買代金五〇〇、〇〇〇円の債権を有するから、同債権をもって、参加人の本件請求中の右(二)による連帯保証責任限度額金二、九八二、〇九六円と対当額で相殺する。

四、抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

五、再抗弁

被告は請求原因(四)記載の所有権移転登記請求訴訟事件において南旺と被告間の本件土地売買代金は全部決済されている旨陳述しているのであるから、これに反する主張を本件においてなすことは、禁反言の法理によって許されない。

六、再抗弁に対する認容

右主張は争う。

第三、立証<省略>。

理由

一、請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。それによれば、被告は請求原因(二)による訴外白子の日本信託銀行に対する債務額について連帯保証人としてその支払の責に任ずべきところ、被告は右銀行との間で被告の連帯保証責任の限度額を金二、九八二、〇九六円とする旨定め、その余について免除を受けたと主張するので、検討する。

<証拠>によれば、日本信託銀行は訴外白子が前記のように昭和四三年六月七日会社更生開始の申立をなしたので、訴外白子に対し、割引手形額面額による買戻請求権とその履行遅帯につき日歩四銭の割合による損害金請求権を取得するとともに、連帯保証人としての被告に対し、同額の請求権を有するに至ったのであり、これについては証憑書類として銀行取引約定書(甲第一号証)を有していたのであるが、回収を保全するため、被告に対し右買戻請求元金を額面とする約束手形の振出を求めて、その振出を受け、昭和四三年八月五日の更生開始決定がなされた当時の右手形額面額は、別紙債権額明細記載(一)の(イ)の元本九、一八八、六九〇円と同額のものであったところ、その後割引手形振出人からの弁済があって右元本が四、一八八、六九〇円に減額され、右金額の約束手形の書替が約三ケ月毎に日本信託銀行と被告との間で続けられたこと、ところが、昭和四四年八月右手形の書替時期が到来した際、前記会社更生事件につき日本信託銀行関係では確定債権のうち七割を免除し、三割を三年間に分割支払う旨の更生計画が近く認可される見込みとなったので、被告はそれを理由に右免除額を額面とする手形でなければ書替に応じないと主張し、一方右銀行は更生計画による権利変更後も更生会社から実際に支払のあった都度手形金額を減額させて行く方法を希んだが、被告の右主張が強い上、同銀行としては、被告に対する本件連帯保証債務請求権について、その保全のため前記のように本件土地に仮差押をしているし、その証憑書類として前記銀行取引約定書も有しているところから、被告との間で手形の書替を円滑に続けて行くため、被告の前記主張に応ずることとし、よって前記会社更生事件における同銀行の確定債権四、二五〇、一九六円(前記別紙債権額明細(一)の(イ)元本四、一八八、六九〇円と同(ロ)の損害金六一、五〇六円の合計額)のうちの免除額二、九八二、〇九六円を額面とする約束手形が昭和四四年一二月右銀行宛被告より振出されるに至り、以後数回その書替が行われたこと、前記確定債権額には更生開始決定後の日歩四銭の割合による損害金は打切られて、含まれておらず、従って前記免除額にもこれが含まれていないのであるが、日本信託銀行としては、従来の手形でも買戻請求元金のみを額面として来たし、当時の被告の財政状態等からして、損害金は手形による回収保全とは別途に取扱う考えのもとに、被告の前記主張に応じたものであること、また日本信託銀行と被告との間の手形の書替に当り、利息の授受は行われていないが、それは右手形がその支払期日に支払をする約束で授受されたものではなく、同銀行としては被告に対する連帯保証債務請求権の回収の保全上徴求していたにすぎないものであることによること、以上の事実が認められるにとどまり、それ以上に、日本信託銀行が被告の連帯保証責任の限度額を最終の手形額面二、九八二、〇九六円に打切り、その余を免除したものと認めるに足る証拠はない。この点に関する証人長谷川本継の証言、被告本人尋問の結果は、証人服部孝三の証言に照らし、そのまま採用し難く、被告の前記主張を認めるに十分ではない。

よって被告の前記主張は採用できない。

二、請求原因(三)の事実のうち、昭和三七年夏頃当時農林省の所有名義であった本件土地について、被告が払下を受けることを条件に、南旺が被告から代金五、〇〇〇、〇〇〇円で買受けたこと及び請求原因(四)の事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、参加人は昭和三九年九月頃南旺から右土地を代金二三、〇〇〇、〇〇〇円で買受けたこと、右土地は、公簿上地目が田となっていたが、南旺において昭和三二、三年頃被告からこれを賃借して以来、その埋立て整地をして事実上宅地となっていたことが認められる。

してみれば、被告が昭和四一年七月一〇日国から本件土地の払下を受けて所有権を取得したと同時に、南旺を経て参加人がその所有権を取得したものと認むべきである。

ところで、前記のように、本件土地について、昭和四三年六月二〇日受付をもって、被告に対する本件連帯保証債務請求権保全のため、日本信託銀行を債権者とする仮差押登記がなされていたのであるから、参加人は、担保不動産の第三取得者と等しく、被告の日本信託銀行に対する前記債務を弁済する正当な利益を有する者と解すべきである。この点につき被告は抗弁(一)で争うけれども、その前提としての南旺と被告間の売買代金五〇〇、〇〇〇円を参加人が負担して被告に支払う旨の合意の事実は、これを認めるに足る証拠はなく、参加人において弁済について前記のように正当な利益を有する以上、債務者である被告の意思に反するか否かは、弁済の効力に影響がないから、右抗弁は採用の限りではない。

しかして、<証拠>によれば、請求原因(五)の代位弁済の事実を認めることができる。

してみれば、参加人は右弁済したところに従って、当然日本信託銀行に代位し、同銀行の被告に対する連帯保証債務請求権を行使し得べきである。

被告の相殺の抗弁については、その自働債権について立証のないこと前記のとおりであるから採用することができない。

三、よって参加人の本訴請求は理由があるから、これを認容し、民訴法八九条、九四条、一九六条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司)

<以下省略>

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